クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い  ★★★

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

有名な戯言シリーズというやつの1冊目。
西尾維新に関してはアニメの化物語くらいしか知らないのですが、そこから受け取っていた印象と大きくは違いませんでした。
嘘つきみーくんを読んだときに、これは戯言シリーズのパクリ(オマージュ?)というレビューを見たのですが、まあそれも分かります。
 
主人公のキャラクターがかなり不透明で、かつ主体性や一貫性に欠ける、この点はかなり気になりました。
自分で自分のことを分かっているつもりで、実は本当に自分が何を望んでいるのかは分かっていないし、それを指摘されても答えを出そうとはしない。
「こちらも本気になれるというわけだ」というような意味深なことを言っておきながら、その直後で「行き詰った」と言ってしまうほど一貫性がない。
天才たちとの会話の中で過去読んだ小説の一文を引用したりするくせに、記憶力が悪いという描写をくどいくらいにしている。
中高生くらいの年代で、心の揺れ幅が大きい精神的に不安定な少年という設定ならまだしも、
この主人公でやるには、単に「設定が固まっていないだけ」と取られてもおかしくないです。
 
そしてヒロインの玖渚がライトノベル的エキセントリックキャラクターを更に3段階ほど飛び越えた異色の人物であるということが、
この本の価値を下げこそすれ、高めることは絶対にないというのも残念な点。
青い髪で天才的エンジニアであり、サヴァン的に自らの欲するところのみを為し、主人公に対して無邪気な好意を向ける。
「壊れたまーちゃん」もよっぽどですが、これは幾らなんでもあんまりだと思いますよ。
むしろ殺人事件に巻き込まれたせいで内面的に狂ってしまったという方がまだ理解の範疇に収まります。
「青い髪」というのが物語上必要不可欠でないならば、そんなオタク的要素を入れることに何のメリットがあるというのか。
「僕様ちゃん」なんていう絶対に誰も使わない一人称を用いることが、個人の特定以外に何の意味があるというのか。
そんなことだけでこれは一般的な小説とは見られないのだから、表面的な要素にしょうもない天邪鬼を発揮する必要はないと思いますね。
逆に言うと、そんな部分でしか特徴を出せないというのは、キャラ作りに関して決定的に才能が欠けているようにも思えます。
 
会話に関しては、確かに面白い。
全てが謎解きのようで、その全てに意味があるように見せていて、そのほとんどには根本的な意味はなく、ただの言葉遊びのようでもある。
ただ、言葉遊びこそが西尾維新の本質だとしても、さすがにそれだけでこの本を文句無く面白いというには無理があります。
色んなところに散りばめられた学問や法則のようなものは、確かにトリックと繋がりを持たせていて、
そういった知識そのものを楽しむ喜びはあるけれど、それもまた物語が面白いかどうかを判断する材料にはなりません。
例えて言うと、攻殻機動隊イノセンスの会話部分だけを無作為に切り取ったような印象。
 
読んでいて楽しめるけれど、この作品が面白いとは言えない。
言葉遊びの才能だけが突出していて、そこを楽しむべき作品なのは分かるんだけど、
単に繰り返したりくどい表現になっているだけの部分も多いです。
言ってしまえば、それは方法さえ分かれば誰でもできることで、才能などではなく、アイデアでしかないと取ることもできます。
捉え方は人それぞれかもしれませんが。
洗練された作品でないことは確かですね。