溺れるナイフ (1〜9) ★★★

溺れるナイフ(9) (講談社コミックス別冊フレンド)

溺れるナイフ(9) (講談社コミックス別冊フレンド)

まさかこういう展開に行くとは。
 
〜あらすじ〜
夏芽とコウは想い合って付き合うことになるが、夏祭りの日に夏芽はストーカーに暴行されてしまう。
その心の傷と、コウに助けてもらえなかったことによる不信が、二人を引き離すことになる。
夏芽はその1件で仕事もなくなり、自分が全てを失ったような感覚に陥る。
コウも人が変わったように暴力に明け暮れ、二人の距離は離れるばかり…
 
 
とりあえず夏芽が襲われるまでの4巻と、5巻からでは物語が全く別物になります。
私は4巻までは★5、それ以降の展開で★3まで落ちたと見ています。
序盤は画力を存分に活かした神がかり的な描写力で、ぐいぐいとこの世界観に引っ張られます。
神とか不思議な力とか、存在価値の証明というような壮大な視点で進むストーリーはまさに圧倒的。
夏芽が無意識に見せるゾクっとするような視線、コウの誰しもを惹きつける輝き、
そういった「特別な人間」を特別たらしめる理由に、心は躍るばかりでした。
しかし5巻以降で、彼らはただの人間に落ちました。
  
さて、このドロドロとした感じ、どこかで見たことあるような。
なんだったかなぁ…

   
自分が自分でなくなったように感じ、好きだった人は知らない人みたいになった。
たった一つの出来事が全ての運命を変え、それはもう元には戻せない。
空しい空気、光を失った世界、大切な気持ちを閉じ込めた世界…
自分はこの世界の支配者だと盲目的に思った自信は砕け散り、
あとに残ったのは外見を取り繕うだけの小さなプライド。
 
 
個人的な希望で恐縮ですが、夏芽には立ち直ってもらって、
また写真の中で強い目を取り戻してもらいたかった。
心の傷が癒えるまでの時間が決して短くはなかったこと、
離れていた時間の分、気持ちも離れてしまったこと、
作者は長い時間をかけてその喪失感を描きたかったのかもしれない。 
ただですね、流石にこれは引っ張りすぎなんじゃないかと思うのです。
コウへの拘りを忘れ、大友を好きになるっていうまでの過程に、ここまでの巻数必要だったのだろうか。
 
いったいいつまで待てば、ただ美しいものに見蕩れるだけだった幸せな時間に戻れるのだろうか?
  
あ、ドロドロとした感じ思い出しました。
リリイシュシュのすべて、です。
あの映画を見ているときの気分と、もの凄くよく似ています。
史上最強の鬱映画(ただし傑作)として名高いあの映画と同じ気分になるのだから、
この作品が一体いかなる雰囲気を醸し出しているのか端的にお分かりいただけるでしょう。
 
夏芽が大友を好きだと言おうが、抱き寄せられただけで顔を真っ赤にしてようが、
それらが全部嘘っぱちに見えてしまうのです。
お前はこんな奴だっただろうか。
分かりやすく自分に心地よい相手を好きだと勘違いしたいだけなんじゃないだろうか。
 
9巻の最後で、夏芽はカナにこういう台詞を吐きます。
ヘドが 出るようです こんな感じなんだね 思い込み押し付けられんのって
 
これは読者に対する言葉なんでしょうか。
コウが神様だとかいうのも、夏芽が格が違うとかいうのも、単なる思い込みの幻想で終わるのでしょうか。
今はただの田舎を舞台にした普通の恋愛漫画でしかありません。
このまま尻すぼみで終わるようですと、最終巻には★1をつけるでしょう。

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