半分の月がのぼる空 総評★★★★

全巻読み終わっての感想です。
良かった点
・文章が上手なこと
・エピソードの引用が秀逸なこと
・キャラクターが魅力に溢れている点
・テーマがはっきりしている点 
 
キャラクターについては、それぞれ個別の主観で同じシーンを書いたりして、心理描写を非常に丹念に綴っている印象があります。
主人公裕一の成長や決意は説得力あるものだったし、里香の単に性格が悪いだけでなく、それが様々な感情の吐露であるということも分かるし、司や亜希子さんが二人を思う優しさもよく表現されていました。
夏目の嫉妬とも警告とも取れる行動の裏側や、幼馴染みゆきの複雑な心理描写も違和感なく溶け込ませていました。
  
またテーマにおいては一貫して、裕一は「本当に大切なもの」を見つけるという点でブレがなかった点、そこで何度も挫折し崩れ落ち諦めそうになりながらも這い上がり、少しずつ成長していくところが素晴らしかったと思います。
 
 
悪かった点
Clannadとの共通点での描写の差
・テンプレートにはまり過ぎている
 
Clannadとの共通点は言うまでもなく、心臓病を患った恋人という設定です。そして彼女を人生の唯一の宝物とし、全てを捧げる主人公という点が共通しています。
発売日を見てみると、半分の月がのぼる空1巻が2003年の10月。Clannadが2004年の8月となっています。
まあこの病気ネタはこの2作品に限ったことではないので、別にどちらがどんなポイントをパクった、なんて思いません。
なんせClannadは元ギャルゲーですので、比較対象がアニメvs小説となり純粋な比較論はできないのですが、あえて言うと、特に泣けるかどうかという点で「半分の月がのぼる空」は、Clannadの足元にも及びませんでした。
Clannadのテーマは「家族」ですが、そこには他人同士だった男女が家族になるという愛情の深さのようなものが根幹にあると思います。
裕一と里香は婚姻届こそ書いたものの、今はまだ家族ではなく、ただじゃれあっている恋人同士に過ぎません。
裕一も未来については漠然としか思い描いていません。そのあくまで「子供」なところが重要なのかもしれませんが。

 
テンプレートにはまり過ぎというのは、6巻以降についてです。
病院編だけで終わっていても勿論良かったのでしょうが、それ以降を描いたのは、作者が里香に幸せな時間を過ごして欲しいというような希望があったのだと思います
当たり前の幸せ、普通の学校生活、それを描写するときに持ち出されたのがテンプレ的なライトノベル的学園モノでは物足りなさがあります。
まあ楽しんで読めたのですが、作者の描きたいテーマは実質5巻で完結しているので、8巻全部を総括するとマイナス1はいたし方ないところかと思います。