電撃文庫 鳥籠荘の今日も眠たい住人たち(2) 壁井ユカコ  ★★★★★

これは面白い。
1巻ではどこまで物語が膨らむのか未知数だったけど、なるほど、これなら作者の力量次第でどれだけでも広げられる。
3つのエピソードからなる短編集です。
 
1.キズナの中学時代の後輩と、妄想女へれんさんの話
2.有生と由起の小さい頃の話
3.由起とキズナのデートの話
 
1は、キズナがパンク少女かつ英国文学好きかつ人に媚びない性格から、中学時代一部の人からとても人気があり、
密かにキズナに好意を寄せていた後輩がホテルを訪ねてくるというお話です。
その中でへれんさんの妄想に巻き込まれ、徐々に危険な行動に…
 
この中での狂気の描かれ方が本当に秀逸。
どす黒く精神を侵すへれんさんの狂気と、記憶と幻想の中で彷徨う状態が、美しく描かれています。
ナイフを突き立てて上級生を黙らせるシーンとかもう最高!
 
2は、有生と由起が小学生時代一緒に暮らしていて、お互いを女の子だと思っていた頃の話です。
ここでもまた狂気が渦巻いているのですが、またこの内容が…
それにしても、この人が書く世界観はとても日本とは思えないですね。
なんか静謐な空気が漂うというか、パリの古びたアパルトマンな雰囲気です。
壁紙の色は薄いラベンダーで。
 
3は1と2のエピソードを上手く絡めながら、大筋の流れを抱くメインの話です。
有生とキズナが喧嘩をし、そこに付け込む形で由起がキズナをデートに誘い、さてそこでいかなる心情の変化があるのか…
ここでもまたえらい引きをしてくれて、次巻に手を伸ばさずにはいられません。
 
 
またしても、この人の独特の世界観にどっぷりと浸かってしまいました。
神様のメモ帳」が変わった人ばかり出てきつつリアルなストリートの空気を内包しているのと180度違い、
「鳥籠荘」は、変わった人ばかりが変わった人に見えないくらいに読み手の心理すら変化させてしまいます。
 
エロも萌えもほぼゼロ。
感動要素もゼロ。
不条理と狂気が全編を包み、少しばかりの人情がトッピング。
最高です。