ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ ★★★

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫)

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫)

〜あらすじ〜
毎日ダラダラと過ごしていた主人公・山本は、ある日初めてした万引きの帰り道で、チェーンソーを振り回す悪党と戦う美少女・絵里に出会います。
チェーンソー男という分かりやすい「悪」を目前にした山本は、先の見えない不安や戦うべき敵も分からない現状から抜け出す、もしくは逃避するために、絵里の戦いを手伝うことに決めるのでした。


さて、賛否両論の分かれる本です。
否の方の気持ちはとてもよく分かります。
あらすじ以外のストーリーは、基本ありません。
バックグラウンドに特別工夫しているわけでもなく、文章が飛びぬけて上手なわけでもない。

ただ、山本の抱える「不安感や見えない敵」といった青春時代の心の闇を、くどいほどに、またここまで感情的に綴っているのは、恐らく大人になってしまった「作家」では書けないものでしょう。
何かやりたいんだ、でもそれが何なのか分からない。
勉強して大学行って就職してのんびりとした老後を過ごすようなレールに乗った生き方なんかしたくないんだという、男なら誰しも一度は思ったであろう夢物語を、恥ずかしげも無く、だからといって自信を持って突き進むわけでもない、現実的な少年の目線で捉えています。

死んで全てから解放されるのが救いなのか、死ぬ覚悟で突っ切った先に救いはあるのか。
紙一重の選択。
もしそこへ向かわせるだけの何かー例えば好きな子を救うためだとかーがあれば、それだけで人生は大きな意味を持つのだ。

ストーリーはほとんどオマケだと言ってしまっていいでしょう。
絵里ちゃんの存在も、山本が好きになるだけの理由を備えた存在、というだけに過ぎない気もします。
山本、渡辺、能登、この3人が、この3人のやりきれない感情の渦こそが、本書の核です。
この本を読んで「頑張れ」としか思えなかった自分はもう、もしかしたら山本がなりなくなかった、つまらない大人になってしまっているのかもしれませんね。