とある飛空士への恋歌 ★★★

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

この内容で絶賛している人が多いことに驚いた。
3、4巻は他のライトノベルには類を見ない緊張感で素晴らしかったが、
5巻は伏線回収に躍起になるばかりで、心躍るような内容ではなかった。
全編通してのトータル評価でいっても、★★★くらいが妥当なところじゃないだろうか。
まあ最終巻まで読むのは既に「ファンである」場合が多いから、甘い評価は致し方ないのかもしれないが。
 
「ありがとうイスラ!」
とりあえずこのしょうもない台詞を含め、会話部分に無駄が多すぎる。
推敲が全く足りておらず、ページ稼ぎにしても稚拙さが目に付く。
全体的なストーリーの流れは、まあこれでもよかったのかもしれないが、
もっとドラマティックに物語を締めくくる術はあったように思う。
 
他の人のレビューを読んでみると、キャラの描き方がよかったとか、カル以外の人間模様がよかったとか感じている人が多いようだ。
しかし残念ながら、そのキャラクターたちがステレオタイプで、語尾に特徴ある言葉をつけて差別化をするという作者の力量の無さを感じさせる部分で、
強いて言えばそれこそが「恋歌」を名作でなくさせてしまっている一番の原因だ。
「アリーメン」ネタもシリアスドラマには相応しくない。描写が過剰すぎて世界観の不安定さを露呈している。
 
カルxクレアという男女の仲にスポットを集中させれば良かったのだが、そこから焦点を散らしすぎてボケボケになってしまっている。
単純な話、そこまで人間模様をしっかり描きたいなら、キャラクター描写をもっと工夫しなければいけなかったし、
あんな風にギャグなんだか真面目なんだか分からないような書き方しかできないなら、その部分はあくまでオマケとして処理すべきだった。
 
余計な部分を徹底的にそぎ落とし、濃密な上下巻くらいでまとめることができたなら、
「恋歌」も「追憶」に匹敵する名作に成り得ただろう。
そういった方向へ持っていけなかったのは編集の腕の無さか、はたまたライトノベル特有の長期連載思考によるものか。
非常に勿体ない作品だった。